伝送路容量(通信路容量、速度)

伝送路容量(速度)の限界

シャノン容量

通信システムが備える伝送路容量(channel capacity)の限界は、「シャノン容量」で表すことができます。(※1)

伝送路容量は、特性から計算で求めることができます。

シャノン容量は、システムが実現できる理論的な限界ですから、これを超えることはできません。次の式で表します。

シャノン容量 Shannon Capacity

C=BW\log_2(1+\frac{S}{N})

シンボル 意味 単位
C 容量(速度) bps ビット毎秒
BW 帯域幅 Hz ヘルツ
S 信号の平均電力(強度) W ワット
N ガウス性ノイズの電力(強度) W ワット
クロード・エルウッド・シャノン Claude Elwood Shannon
1916年4月30日 〜 2001年2 月24日 米国の電気工学者、数学者
容量(速度)の計算例
S/N比を20dB(電力比で100対1)にすると容量Cは、C=BW×log2(1+ 100)=BW×6.66。したがって、1Hzあたり6.66 bpsです。帯域幅BW=1MHzでは6.66 Mbps、1GHzでは 6.66 Gbpsです。このように、他の条件が同じなら容量Cは帯域幅に比例します。

アナログ電話回線は、300Hzから3.3KHz程度の帯域を使用します。SN比を32.5dB(※2、電力比1778)を仮定すると、帯域幅3KHzからC=3000×10×log21778=3000×10.79=32,388=32K bps。

典型的なアナログ電話回線では、22〜38 Kbs 程度で、V.34モデムの限界値 33.6 Kbps の根拠はこの式で計算したものです。(※3)

ガウス性ノイズ Gaussian noise
ノイズの瞬時振幅の時間分布は、正規分布 (Normal distribution または Gaussian distribution) を示します。ある瞬間の瞬時振幅はランダムに変化し、次の値を正確に予測できません。

ノイズ波形は、電圧0ボルトを中心にプラス・マイナスに変化します。可聴帯域ではこの特性から音を生じます。(変化しなければ音は出ない。)

瞬時値がプラスまたはマイナスになる確率は共に0.5で、ノイズの瞬時振幅は0から最大値の範囲内にあります。

次の図は、オシロスコープで観測したホワイトノイズの波形です。

ホワイトノイズ white noise
ホワイトノイズ white noise
波形と帯域幅
同じ信号でも、観測する帯域幅を変えるとみかけの波形は変化します。たとえば、より高級な広帯域のオシロスコープの波形は、帯域幅が広がりノイズは増えたように見えます。

ボトルネック — 通信システムの性能はどこで決まるか

結論から言うと、通信システムの性能は最も帯域幅の狭い(遅い)部分で決まります。

伝送装置の性能は、技術の進歩と共に上がり続けていますが、システムの性能を最終的に決めるのは、最も遅い(容量の小さい)部分です。

たとえば、ADSLを使うシステムでは、ユーザー宅から電話局までの通信回線が最も遅く(容量が小さい)、伝送路 (channel)の特性で決まります。

図の左側のタンクに溜まった水を右のタンクに移すとき、水量を決めるのは最も細いパイプの部分であることは容易に分かります。水量を増やすには、パイプを太いものに取り替えるか、圧力を上げて水流の速度を上げる、またはこの両法を行うしかありません。

扱うものが電気信号では(光も同じですが)、水の場合とは異なりパイプを太くするしかありません。電気信号の場合は(光も同じで)、信号の移動する速度を上げることはできません。なぜなら、電気信号がA地点からB地点に到達する時間はほぼ一定だからです。電気信号の伝わる速度は、媒体の比誘電率 (dielectric constnt) の影響を受けます。

具体的に伝送容量の「パイプを太くする」には、ノイズの強度を一定と仮定すると、広帯域化することが必要です。

信号の伝わる速度はほぼ一定ですから、通信で「高速」というのは、厳密には正しくないことが分かると思います。「高速」の「意味は「処理時間の短さ」の意味で使っています。

ボトルネック Bottleneck
ボトルネック Bottleneck

信号の遅延と伝送容量
通信システムでは、信号の遅延を問題にすることがあります。

ディジタルテレビ放送は、3秒程度の遅延があります。遅延時間の大きさから3秒も遅れる「時報」は使い物になりませんが、普段のテレビ放送には大きな支障はありません。遅れる理由は、信号の圧縮と伸張に時間を要するからです。

遅延時間があることは、ラジオの野球放送を聞き比べるとはっきりします。ホームランを打ったりすると、テレビではしばらくしてからこの事が分かります。

遅延時間は伝送容量(速度)とは無関係です。スループット (throughput、単位時間あたりの処理能力) は遅延時間の影響を受けません。

用語に関して
通信回線の性能を表す言葉は、「速度」を使わずに「容量」を使うのが通信の業界では習慣です。

一般に使われる「速度」は、時間に対するデータ量の意味です。つまり、一定の決まった時間に伝送データ量が多いと「高速」の意味で、少ないと「低速」の意味で使います。

ところが、A地点からB地点まで、信号の到達する速度はほぼ一定です。電気信号でも光信号でも、到達する速度はほとんど変化しません。

「高速」か「低速」かというときに変化するのは「速度」ではなくデータの「量」です。したがって、この場合の「速度」の表現は、厳密に言うと正しくありません。

ただ、日本語の「早さ」という言葉には、処理の「早い」「遅い」の意味もありますから問題ないはずですが、通信の業界では最初に記したように、「速度」を使わずに「容量」を使うのが習慣です。

参考文献

※1
A Mathematical Theory of Communication
C. E. Shannon The Bell System Technical Journal Vol 27 1948

※2
Telecommunication System Engineering
R. Freeman 著 1980年 John Wiley & Sons 刊

※3
通信ネットワーク用語辞典 2001〜2002年版
2001年 秀和システム 刊