IEEE 802.22とは

WRANによるディジタル・ディバイドの解消

無線伝送は「ブロードバンド・ゼロ」(=サービスを利用できない)地域を解消することにも役立ちます。人口のあまり多くない地域においても、ブロードバンド・サービスを提供することが望まれています。

市場の要求により、無線ブロードバンド・サービスの伝送レートはますます大容量(高速)化していますが、通信方式によりカバレッジ(受信範囲)は狭くなりつつあります。

これを解消するには、セルラ方式のように一定間隔ごとに基地局をたくさん用意する仕組みがあります。マクロセル、マイクロセル、フェムトセルなどは、それぞれ一つの基地局のセル(通信範囲)の違いはありますが、サービス区域で、いずれもたくさんの基地局を配置する必要があることには変わりありません。

今まで、無線サービスプロバイダは都市部の区域に焦点をあて事業を行ってきました。投資を速く回収するのが目的です。あの米国でさえも、田舎に住む28%の国民(全体の28%なのか、それとも田舎の28%なのか、おそらく後者のようです。)は、3Mbps 以上のインターネットアクセスの手段を持っていないとIEEEの資料に書かれています。

セルラ方式とはまったく違う方式で研究が行われているものに、VHF/UHF帯域を利用する「WRAN  無線地域ネットワーク」があります。「WRAN」の用語は、ここで紹介する IEEE 802.22と共に生まれたようです。新たにケーブルを敷設するのは大きなコストがかかりますが、802.22無線基地局の設備は格段に安く、手軽にできます。

802.22によるWRANは「ディジタル・ディバイド」を解消し、人口密度の低い地域のブロードバンド・アクセスを安価に効率よく提供できる手段は無線伝送以外にはない、ということがIEEEの資料に書かれています。従来の無線伝送サービスより広い区域に提供できる802.22の特性を生かすことも書かれています。(*1)

IEEEの資料によると、802.22規格は、田舎(人口密度の低い)の地域向けブロードバンド・アクセス特定用途に設計された、ディジタル・ディバイドを解消するIEEEの最初の規格です。

First IEEE Standard that is specifically designed for rural and regional area broadband access aimed at removing the digital divide.
用語 説明
ディジタル・ディバイド digital divide インターネットなどの情報利用手段を持つ人と持たない人の間にある社会的格差。調査によると世界人口の73%(51億人)はインターネット・アクセスの手段がない。インドの人口は12億人を超え、5億人が携帯電話を所持する。人口のわずか0.75%だけが高速インターネットアクセスを利用できる。
UHF Ultra Very High Frequency 300M〜3GHz
VHF Very High Frequency 30M〜300MHz
WRAN Wireless Regional Area Network 無線地域ネットワーク
<参考> VHFとUHFの名称は、かなり昔からあります。しかし現在では、名前から連想するような高い周波数ではありません。まだ研究段階にある化合物半導体 (compound semiconductor) の素子には、1THz (1000 GHz) に近い周波数で動作するものがすでに存在します。

図 WRAN 用語 説明
 
WRAN
WRAN
LAN Local Area Network
MAN Metropolitan Area Network
PAN Personal Area Network
RAN Regional Area Network
<備考> 正確な通信距離の規定は存在しません。この図は目安です。
IEEEの資料にはWirelessの文字はありませんが、無線か有線かに関わらず、それぞれ通信ネットワークの概略の広がりを示します。

Super WiFi

802.22規格は、「スーパーWiFi」の名前で呼びます。スーパーWiFiは、もう一つ、「802.11af」規格が存在します。802.11afについてはこちらの記事に書きました。

Super WiFiと従来のWiFiの通信距離

 次の図は、通信距離について従来のWiFiと比較した例です。地図を確認すると米バーモント州ニューポート付近らしく、起伏もありけっこう広い範囲に見えます。WiFiは電波の届かない場所がありますが、スーパーWiFiは広い範囲に届くことが良く分かります。

  図 WiFi と Super WiFi

WiFi & Super WiFi
WiFi & Super WiFi

ホワイトスペース周波数とコグニティブ無線

「ホワイトスペース周波数」についての説明は、ここでは簡単に行います。

用語 説明
ホワイトスペース周波数 特定用途向けに割り当てた周波数で、時間と空間(地域)を限定すると使われていない帯域のこと。テレビ放送では、TVWS (TeleVision White Space frequency spectrum)

参考記事
テレビ放送の「TVホワイトスペース」について、詳しくはこちらの記事をどうぞ。

802.22規格はTVWSを使います。使用する周波数は、テレビ放送向けにすでに割り当てられた帯域の「空き」の部分です。これを探して利用する仕組みでは、従来のWiFiやWiMAXなどと異なる機能や技術も必要です。この仕組みを総称し「コグニティブ無線 Cognitive Radio」と呼び、802.22や802.11af等で使われます。

IEEEの資料によると、802.22規格は、コグニティブ無線のすべての特徴を備えるIEEEの最初の規格です。

First IEEE Standard that has all the Cognitive Radio features.
用語 説明
コグニティブ無線 Cognitive Radio 通信ネットワークや無線のノード(端末などの機器)が、状況に応じて送信・受信に用いるパラメータを変更し、干渉を避けるように高い効率で通信を行う技術の総称。具体的な機能は、
・使用中スペクトルの検出
・端末等が使用するスペクトルの管理(干渉ノイズを防ぐ帯域制御、空間ビームの制御など)
など。

海外では、ホワイトスペース周波数を有効に利用する試みがすでに行われている国々があります。

たとえばTVWSにおいては、地域ごとにみるとこちらの記事に書いた図のように、割り当て周波数帯の半分も使っていないのが現状ですが、空いている帯域を有効に利用する仕組みです。

次回の記事は、IEEE 802.22規格の仕様について詳細をお伝えします。

参考資料  
  *1. Introduction to IEEE Std. 802.22-2011 and its Amendment PAR
for P802.22b: Broadband Extension and Monitoring
doc# IEEE 802.22-11/0132r01 Nov 2011

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