IEEE 802.22の仕様

<更新情報>
最終更新日 2012年12月1日 00:12
  「802.22の基本仕様」の表で16番目の項目について、STBCは誤り。
  正しくは「SBTC Shortened Block Turbo Code」です。
  
  参考「STBC Space Time Block Code」は存在します。
  符号については、機会をみて解説する予定です。
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ここでは、IEEE 802.22の仕様とこれに関連する部分を解説します。

  IEEE 802.22の概要については、こちらの記事をどうぞ。

IEEE 802.22は、TVホワイトスペース周波数 (TVWS)を使います。

  TVホワイトスペースについては、こちらの記事をどうぞ。

では、無線機の構成について説明します。
802.22の仕様については、終わりの部分で詳しく紹介します。

Super WiFi無線機の構成

次の図は、無線機の汎用の構成を表します。Super WiFi以外のWiMAXやLTEにおいても、同じような構成にすることができます。

  図 無線機の構成

Generic Radio Platform
Generic Radio Platform

略語 説明 略語 説明
A/D Analog to Digital converter
アナログ・ディジタル変換器
MAC Media Access Control
媒体アクセス制御
AGC Automatic Gain Control
自動利得制御
Mod Modulator
変調器
BPF Band Pass Filter
バンドパス・フィルタ
PA Power Amplifier
電力増幅器
D/A Digital to Analog converter
ディジタル・アナログ変換器
PHY PHYsical layer
物理層
Demod Demodulator
復調器
PLL Phase Locked Loop
位相同期ループ
FDD Frequency Division Duplex
周波数分割複信
SG Signal Generator
信号発生器
IF Intermediate Frequency
中間周波数
TDD Time Division Duplex
時分割複信
LNA Low Noise Amplifier
低ノイズ増幅器

Super WiFi用の半導体チップ

Super WiFiのアプリケーションに使うことができるチップの例をあげます。上記の図と共通する点ですが、Super WiFi専用ではなく、たとえばWiMAXやLTE等の他の用途にも使用することができます。

信号処理の心臓部を担うMACの部分に使えるチップは、Optimum Semiconductor社の製品があります。3個の600MHz DSPとARMのマイクロコントローラを内蔵します。上記の図「無線機の構成」の右側の部分です。

Optimum Semiconductor社のサイト
SB3500 Baseband engine
http://www.optimumsemi-tech.com/processor.html
用語
DSP Digital Signal Processor
MAC Media Access Control

ARM 英ARM社がライセンス供与し組み込んだ形態です。組み込み用途の製品では、同社のコントローラはこの業界では有名で、世界中で非常に数多くの機器に使われています。

もう一つの主要部品は、送信・受信の回路ブロックです。

この部分に使えるチップは、BitWave Semiconductor社の製品があります。広い周波数の範囲 (700MHz〜3.8GHz)において、機能ブロックを特定の帯域にチューニング(同調)することができるのが大きな特徴です。上記の図「無線機の構成」の中央の部分に使います。

さらに、別の特徴は、マルチ・プロトコルに対応します。つまり設定を変更すると、異なる無線伝送のアプリケーションに対応します。たとえば、802.22以外に、WiMAXやLTEなどです。これ以外にもたくさんあります。詳細は、下記の「Evaluation Engineeringの説明」を参照。

  プロトコル 通信手順

BitWave Semiconductor社のチップ
BW1102 Softranseciver
Evaluation Engineeringの説明
http://www.evaluationengineering.com/articles/200806/the-new-shape-of-sdr.php
動的に再構成する機能ブロック
「広帯域」ばかりが常に高性能ではありません。無線機では、目的の周波数チャンネルに同調して信号を捉えるときは、その周波数だけを捕捉する「狭帯域」の高性能が求められます。その理由は、余計な信号が入ってしまうからです。

広帯域の範囲に通信チャンネルが広がっているとき、広い周波数範囲で周波数を変更し、正確に同調する機能は欠かすことができません。同社は「動的に再構成可能な機能ブロック dynamically reconfigurable functional blocks 」と表現しています。

なお、BitWave社は中国の企業が買収したという情報もありますが、次のwebサイトを閉じています。
  http://www.bitwavesemiconductor.com

別のサイトがありますが、ほとんど何も公開していません。
  http://www.bitwave.com/

BW1102データシートは探してもちょっと見つかりません。もっとも、入手するにはまず間違いなくNDA (Non Disclosure Agreement) が必要でしょう。

同社は、このチップに関する特許を取得済みです。

802.22の基本仕様

次の表は、802.22の基本仕様です。参考資料 [Ref-1], [Ref-2] を基に作成。

No. 項目 仕様
*1 Application
アプリケーション
人口密度の低い区域向けのブロードバンド・アクセス
*2 Network Topology
ネットワークの利用形態
Point to Multipoint Network
1対多の通信ネットワーク
*3 Frequency
周波数
54〜862 MHz
*4 Coverage
伝送距離
30 Km typ, 100 Km max
30 Km程度から最大100Km
*5 TV Channel Bandwidth
TVチャンネル帯域幅
6, 7, 8 MHz 世界中の放送システムに対応(日本国内は 6MHz)
*6 Channel bonding
チャンネル・ボンディング
up to 3 contiguous CH
連続する 3チャンネルまで
*7 Fractional Frequency Use
*8 Multiple Access
多元接続方式
OFDMA
直交周波数分割多元接続
*9 Duplex
復信方式
TDD optional FDD
FDDはオプション
*10 サブキャリア数
=FFT点数
2048 1K/4K @optional, 2K/4K/6K @channel bonding
*11 MIMO not supported or beamforming
ビーム・フォーミングもサポートなし
*12 Peak Data Rate
ピーク・データレート
22.69 Mbps (5/6, 64QAM) @BW 6MHz
72.6 Mbps @channel aggregation
*13 Spectral Efficiency
帯域効率
3.78 bits/s/Hz max(最大),
0.76 bits/s/Hz min(最小)
*14 Cyclic Prefix
サイクリック・プリフィックス
1/4, 1/8, 1/16, 1/32
*15 Modulations
変調方式
Adaptive Modulation and Coding 適応変調符号化[*15a] QPSK, 16QAM, 64QAM coding rate  1/2, 2/3, 3/4, 5/6[*15b]
*16 Coding CC optional CTC, SBTC, LDPC
*17 Transmit Power
送信電力
4W EIRP default
補足説明
*1 人口密度の高い都市部は対象ではない。
*4 距離は送信電力により異なる。米国内の基地局とユーザー固定局は最大4W EIRP、移動局は最大100 mW EIRP。USAとカナダ以外は記載なし[Ref-2]
*5 TVチャンネル帯域幅は国により異なるところがある。
*6 Channel bonding=Channel Aggregation 複数のチャンネルをつなぎ帯域幅を広げる仕組み。目的は伝送レートを高める。
*7 資料[Ref-1]には記載あり。規格書[Ref-2]には記述はなく詳細不明。
*8 Orthogonal Frequency Division Multiple Access 多元接続方式は、複数のユーザーが回線(通信チャンネル)を共用する仕組み。802.22のOFDMAはシンボル時間を長くとってあり、遅延波への耐性を高め、マルチパスに強い。OFDMAについては、こちらの記事を参考にどうぞ。
*9 TDD=Time Division Duplex 短い時間で区切り、送受信の回線(通信チャンネル)を共用する仕組み。FDD=Frequency Division Duplex 異なる周波数により送受信の回線を共用する。
*10 FFT Fast Fourier Transform 高速フーリエ変換
*11 MIMOは使わない。理由は、低い周波数ではアンテナサイズの問題がある。(有効に機能しない。)ただし、使える準備はしてあるという記述がIEEEの資料にある。MIMO=Multiple Input and Multiple Output MIMOについて詳細は、こちらの記事を参考にどうぞ。
*14 機器の内部で処理する信号間の干渉を防ぐ目的と、マルチパスによる影響を防ぐ目的がある。別の呼び名はガード・インターバル Guard Interval
*15a 適応変調符号化は、電波の状態を検出して判断し、状況に応じて符号化レートと変調方式を変更する仕組み。状態が良いときは帯域効率の高い方式に切り替え、さらに符号化率も変更し、伝送スループットを上げることができる。最近の無線伝送方式では、この仕組みを備えるものが多い。変調方式の詳細は、こちらの記事を参考にどうぞ。
*15b k/nの表現に置き換えると、kは元の情報のビット数、nは誤り訂正用の冗長データを含める合計のビット数。coding rate(符号化率)はこの比率のこと。誤り訂正は、FEC (Forward Error Correction) により、事前に冗長データを送信し、受信側で訂正する。
*16 CC=Convolutional Code、CTC=Convolutional Turbo Coding、SBTC=Shortened Block Turbo Code、LDPC=Low-Density Parity Check
*17 EIRP=Equivalent (Effective) Isotropic Radiated Power 等価等方輻射電力。EIRPは次の式で定義する。EIRP= (dBi, または dB)=Po × Gain Poは送信電力、ゲインは理想の等方向性アンテナの利得に対する相対利得。要約すると、現実のアンテナは指向性を持つが、あらゆる角度360°方向に放射すると仮定し、換算した信号強度の値を示す。

送信パラメータ

[Ref-2] ( Section 9.1.2.3 Transmission Parameters )

TV channel bandwidth
TVチャンネル帯域幅
6 MHz 7 MHz 8 MHz
802.22 Signal bandwidth
信号帯域幅 *1
5.6240625
MHz
6.5625
MHz
7.494375
MHz
NG Number of Guard subcarriers
(L, DC, R) ガードサブキャリア数
368 (184, 1, 183)
NU Number of Used subcarriers
=Nd + Np 使用サブキャリア数
1680
ND Number of Data subcarriers
データサブキャリア数
1440
NP Number of Pilot subcarriers
パイロットサブキャリア数
240

*1. 資料 [Ref-1] には記載はあるが、規格書 [Ref-2] にはない。

データ・レート

データ・レート(伝送速度)は、次の表のとおり変調方式により変化します。

上記の補足説明にあるように、802.22では電波の状態に応じて変調方式と符号化率を変えます。[Ref-2] ( Section 9.2 Data rates )

  参考記事
  変調方式の説明は、こちらの記事を参照。

PHY
Mode
Modulation
変調方式
Coding Rate
符号化率
Data rate
伝送レート
Mbps
Spectral efficiency 帯域効率 *5
bit/(s * Hz)
1 *1 BPSK Uncoded *6 *6
2 *2 QPSK 1/2 Repetition: 4 *6 *6
3 *3 1/2 Repetition: 3 *6 *6
4 *4 1/2 Repetition: 2 *6 *6
5 QPSK 1/2 4.54 0.76
6 2/3 6.05 1.01
7 3/4 6.81 1.13
8 5/6 7.56 1.23
9 16QAM 1/2 9.08 1.51
10 2/3 12.10 2.02
11 3/4 13.61 2.27
12 5/6 15.13 2.52
13 64QAM 1/2 13.61 2.27
14 2/3 18.15 3.03
15 3/4 20.42 3.40
16 5/6 22.69 3.78
NOTE 1: Mode 1 is only used for CDMA opportunistic bursts.
    Mode 1は、CDMAを利用できるときのみに使用。
NOTE 2: Mode 2 is only used for SCH packet transmission.
    Mode 2は、SCHパケットの送信のみに使用。
NOTE 3: Mode 3 is only used for CBP transmission.
    Mode 3は、CBPの送信のみに使用。
NOTE 4: Mode 4 is only used for FCH transmission.
    Mode 4は、FCHの送信のみに使用。
NOTE 5: Spectral efficiency informative values are calculated assuming continuous stream of 1440 data subcarriers for the given modulation and FEC modes (i.e., assuming no TTG, RTG and superframe and frame headers).
帯域効率は計算値で、規定の変調方式とFECモードにおいて、連続する1440データ・サブキャリアのつながりの状態を仮定する。(すなわち、TTG、RTG、スーパーフレームとフレーム・ヘッダーは仮定しない。)
NOTE 6: These modes are for control signal transmissions and there is no need to specify data rate or spectral efficiency.
これらのモードは制御信号の送信に使う。データレートと帯域効率の規定は必要ではない。

  CBP  Coexistence Beacon Protocol
  CDMA  Code Division Multiple Access
  FCH  Frame Control Header
  FEC  Forward Error Correction
  RTG  Receive/Transmit Transition Gap
  SCH  Superframe Control Header
  TTG  Transmit/Receive Transition Gap

スペクトル・センシングと関連機能

一次利用者を保護する目的でTV放送波等の信号を検出する機能とその関連です。

一次利用者
TV放送と、これ以外にワイヤレスマイクの利用者がある。802.22規格ではTV放送波以外にワイヤレスマイクの電波も検出する。

この部分は、後ほど追加する予定です。

[Ref-1]
Draft PHY/MAC Specification for IEEE 802.22 IEEE P802.22 Wireless RANs 2006-05-15 doc# IEEE 802.22-06/0069r1 
[Ref-2]
IEEE 802.22 規格書(データシート)
Part 22: Cognitive Wireless RAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications: Policies and Procedures for Operation in the TV Bands (802.22-2011.pdf) 2011 July 1

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