モバイルWiMAXとは

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<更新情報>
  用語の説明に抜けがあり、修正しました。

  DC-HSDPA  Dual Cell HSDPA  HSDPAの改良版
  HSDPA    High-Speed Downlink Packet Access  
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最終更新日 2012年6月12日

モバイルWiMAXは、IEEEにより定められた移動通信端末向けの規格の一つです。WiMAX(固定端末向け)を元にしており、多くの部分は共通です。

  WiMAX      IEEE 802.16-2004
  モバイルWiMAX  IEEE 802.16e-2005

無線データ通信の構成要素

WiMAXやその他の方式において、無線によるデータ通信方式を構成する基本的な構成要素があります。これについて説明します。以下の要素が必要です。

➜ 周波数帯
  高速伝送では、必然的に高い周波数帯を必要とする

「高速伝送」は、正確に表すと「高い伝送容量」のことですが、容量は帯域幅に比例します。したがって、必然的に高い周波数帯が必要です。
 
簡単に紹介すると、帯域幅、伝送容量とノイズの関係はシャノンの定理で表すことができます。もっと平たくいうと、帯域幅と伝送容量は比例する関係にあります。
 
➜ 多元接続方式
  複数のユーザーが一つの基地局を共用する仕組み

移動体通信ではたくさんのユーザーが利用します。この目的により「多元接続」の仕組みは必須です。

➜ 複信方式
  上りと下りの通信を多重化する仕組み

通信では、上りと下りの通信が必要で、普通は同時に使うことができます。この仕組みを実現します。(「全二重通信」)

➜ 変調方式
  電波に通信データを乗せる仕組み

電波で信号を伝えるには、搬送波にデータを乗せる「変調」処理を行いますが、その方法には種類があります。方式により伝送容量(速度)は大きく違います。

➜ 空間伝送路多重化
  MIMOによる伝送容量を上げる仕組み

複数のアンテナと空間伝送路を利用して伝送容量を上げることができます。

以上の、基本的な構成要素を組み合わせて、モバイルWiMAXの仕組みを構成します。他の無線通信方式でも同様です。

モバイルWiMAXの特徴

モバイルWiMAXには、次の特徴があります。

・高速なデータ伝送
・常時接続
・高速移動時にも利用できる
・ハンドオーバーとセル範囲
・世界標準規格であること
・適応変調符号化
・MIMO技術

以下では、それぞれの項目について概要を解説します。

➜ 高速なデータ伝送
下り方向は最大144Mbps、上りは最大138Mbpsです。現在では、もう驚くほど高速ではありません。
 
最初の規格では、ここまで速くありませんでした。最新のAir Interface Release 1.5は、大幅に高速化しています。
  
LTEとの比較では、モバイルWiMAXはLTEには大きく及ばず、後継のWiMAX2でもようやくLTE並みという意見を目にすることがありますが、古い規格との比較にすぎません。下記の比較表を参照ください。
  
モバイルWiMAX2の最新規格は、1 Gbpsを超える伝送レートを目指しているようです。(モバイルWiMAX2については、別の記事を準備中です)
  
LTEの伝送レートについては、FEC (Forward Error Correction) なしの条件を表示することが多いようです。FECなしでは、処理量は大きく減るのでレートは上がります。

当たり前のことですが、エラーによる伝送品質は落ちます。メーカーが、できるだけ高い性能であることを提示したい気持ちは理解できますが、現実に役に立たない数値を表示しても、意味がありません。(比較表では、FECなしの条件も記載しました。)

➜ 常時接続
当たり前すぎて不思議に思う方もいるかもしれません。この仕組みは、使いやすさを表す重要な点の一つです。モバイルWiMAXではダイアルアップの煩わしさはありません。
 
「ダイアルアップ」を経験したことがない若い方は多いと思います。インターネットの凌明期には「ダイアルアップ」は当たり前でした。電話回線につないだモデムからダイアルアップしてつなぐ必要がありました。つないだ時間に比例して課金する仕組みです。
 
➜ 高速移動時にも利用できる
時速100Km程度の移動時でも、通信速度はあまり落ちません。

➜ ハンドオーバーとセル範囲
移動時にはセルを切り替えて通信します(携帯電話と同じ)。この仕組みは「ハンドオーバー hand over」です。モバイルWIMAXの規格では、セルの半径は1Km〜3Kmですが、現実の装置では1Km程度に設計するようです。
 
   セル  一つの基地局が受け持つ通信区域

➜ 世界標準規格であること
携帯端末会社ごとの個別の規格が乱立する状況では、他社のサービスに乗り換えるには製品を買い替える必要があります。携帯電話では、かつてこの状況がありました。世界標準規格ではこのようなことがありません。

➜ QoSをサポートする
ストリーミングビデオ/オーディオの視聴時は、通信の途切れや伝送時間のばらつきによる大きな「ゆらぎ」があるとスムーズな再生はできません。このようなアプリケーションではQoSをサポートする機能があり、伝送特性の規定 があります。

➜ 適応変調符号化
電波の状態に応じて符号化レートと変調方式を変更します。状態が良いときはQPSKから16QAM、さらに64QAMに切り替え符号化率も変更し、伝送スループットを劇的に向上することができます。
 
  スループット  
  単位時間(決まった時間)あたりの伝送容量(処理能力)
  
一般に良く使う「伝送速度」は正確にいうと、正しくありません。通信でA地点からB地点までに届く信号の「伝送時間」は、いつもほぼ一定です。

「速い」のか「遅い」のかを問題にするとき、その「速さ」は、単位時間あたりの「データの容量」を意味します。
   
「変調」については、次の記事を参考にどうぞ

  モデムとは
  http://wimax-page.123-info.net/archives/330

➜ MIMO技術
 複数の伝送路による伝送容量を上げる仕組みを備えます。
 2×2 MIMO、1×2 SIMO
 (それぞれ受信アンテナと送信アンテナの数を表す)

LTEとの類似点

前節で述べた多くの点は、携帯電話のLTEやDC-HSDPAでも備える処理方式です。つまり、モバイルWiMAXだけでなく、他の無線通信の方式でも使う、同じ仕組みが組み込まれています。

  LTE     Long Term Evolution
  DC-HSDPA  Dual Cell HSDPA  HSDPAの改良版
  HSDPA    High-Speed Downlink Packet Access
  

携帯電話では、音声通信のみに利用するならば、数十メガ bpsもの伝送容量はまったく必要ありませんが、動画などの大容量の伝送需要に応えるべく、性能は上昇の一途をたどっています。

一方、モバイルWiMAXはデータ通信が主な目的ですが、高速通信の仕組みを考えると、LTE等の内部とある程度似るのは当然と考えられます。

モバイルWiMAXのQoS

モバイルWiMAXでも、データ通信だけでなく、VoIPを使うと音声通話を利用することができます。VoIPを使うアプリケーションは、Skypeが有名です。最近は、スマートフォン向けのVoIPアプリがいくつも登場しています。「OnSay」は、相手の電話番号を知らなくてもつながります。ご存知の方も多いと思います。

  VoIP  Voice Over Internet Protocol
  インターネットを使用し音声通話を行う仕組みです。
  IPパケットにより音声を伝送します。

VoIPやストリーミングビデオ/音声などのリアルタイムアプリケーションでは信号が途切れたりする大きな遅延の発生を防ぎ、一定の信号品質を確保する仕組みが必要です。

ストリーミングの用途では、ファイルをダウンロードしながら同時に再生しますが、「遅延のゆらぎ」が発生したり、大きな遅延は「リアルタイム」の再生には支障をきたします。

  ストリーミング
  ダウンロードしながら、同時に再生する仕組み

  伝送遅延のゆらぎ
  パケット到着時間の「ばらつき」による品質の低下

  リアルタイム
  「決められた時間内に処理が終わること」ですが、
  用途により「時間」は変化します。

モバイルWiMAXは、このような用途向けに一定の信号品質を確保するQoSを備
えています。

  QoS      Quality of Service  

  通信ネットワークにおいては、「伝送品質」を表し、
  各種の特性を規定します。「QoS」は広く使われる
  用語です。決まった特性を意味するものではなく、
  用途により変化します。

モバイルWiMAXのVoIPとストリーミングビデオ/音声では、例をあげると次のQoSに関する規定があります。

  最大レイテンシの許容差  Maximum Latency Tolerance
  伝送遅延ゆらぎの許容差  Jitter Tolerance
  レイテンシ        latency 遅延時間

QoSはひらたくいうと、「パケットの伝送が、前もって決められたレイテンシよりも超過しないように制御し、大きな遅延の発生を防ぐ」ことと「パケット伝送時間のばらつきを一定の範囲に収める」機能を果たします。

QoSの内容は、アプリケーションに応じて異なります。たとえば、FTPやその他のデータ伝送(Webの閲覧など)では、上記の特性をサポートしません。

  FTP  File Transfer Protocol

専門的な話ですが、モバイルWiMAXの内部で、信号の伝送を制御する役割を担うMACは、QoSをサポートする仕組みを備えています。

  MAC  Media Access Control  伝送媒体制御

モバイルWiMAXとLTEの比較

以下は、この二つの規格に関して、基本的な仕様と比較表です。

比較表の性能に関して、気になるところはあります。

それは、モバイル WIMAXの上り伝送レートがあまりにも高い点です。帯域幅は同じですが、比較時の条件では伝送路は、上り2 × 2 MIMOに対して、下り1 × 2 SIMOですから、上りと下りのレートが同等なのは理解できません。

データは、WiMAX Forum 発行の資料によるものです。信頼できるとは思いますが、どうも納得できません。とりあえず、資料の数値をそのまま載せてあります。

  WiMAX Forum  http://www.wimaxforum.org/
    実体は500以上の企業・団体で構成する業界団体。
    WiMAX製品の相互運用性のテストや認定を行う。

モバイル WiMAXとLTEの基本仕様
LTE モバイル WIMAX
用途 音声/データ通信 主にデータ通信
周波数帯 0.7〜3.8GHz帯 2.3〜3.8GHz帯
帯域幅 20MHz 3.5〜20 MHz
最大移動速度 350Km/h 120Km/h
複信方式 FDD, TDD FDD, TDD
多元接続方式 OFDMA(下り)
SC-FDMA(上り)
OFDM, OFDMA, SOFDMA
変調方式 64QAM QPSK, 16QAM, 64QAM
通信距離 5〜100Km 1〜3km
VoIP 50ユーザー (@FDD)
MIMO 2 x 2, 4 × 4など オプション (DL: 2×2, UL: 1×2)
QoS 5種類

モバイル WiMAXとLTEの比較
LTE モバイル WiMAX
LTE 3Gpp Released 9 IEEE 802.16e-2005
復信方式(上り・下り多重化) FDD FDD
チャンネル帯域幅 2 × 20 MHz 2 × 20 MHz
BSアンテナ (2 × 2) MIMO (2 × 2) MIMO
下り変調方式、 64QAM 64QAM
符号化率 5/6 5/6
下り伝送ピーク 144.0 Mbps 144.4 Mbps
レート (172.8 Mbps w/o符号化) (173.3 Mbps w/o符号化)
MSアンテナ (1 × 2) SIMO (1 × 2) SIMO
1-上り伝送ピークレート 43.2 Mbps (57.6 Mbps w/o符号化) 82.9 Mbps (110.6 Mbps w/o符号化)
1-@変調方式 16QAM 16QAM
1-@符号化率 3/4 3/4
2-上り伝送ピークレート 72.0 Mbps (86.4 Mbps w/o符号化) 138.2 Mbps (165.8 Mbps w/o符号化)
2-@変調方式 64QAM 64QAM
2-@符号化率 5/6 5/6

省略語の説明 Abbreviations of Terms
Abbreviations Terms
16QAM 16 Quadrature Amplitude Modulation
64QAM 64 Quadrature Amplitude Modulation
BS Base Station
DL DownLink
FDD Frequency Division Duplex
MS Mobile Station
MIMO Multiple Input & Multiple Output
OFDM Orthogonal Frequency Division Multiplexing
OFDMA Orthogonal Frequency Division Multiple Access
QoS Quality of Service
QPSK Quadrature Phase Shift Keying
SC-FDMA Single-Carrier Frequency-Division Multiple Access
SOFDMA Scalable OFDMA
SIMO Single Input & Multiple Output
TDD Time Division Duplex
UL UpLink
VoIP Voice Over Internet Protocol

LTEについて、詳しくは次の記事を参考にどうぞ。

  LTEとは
  http://wimax-page.123-info.net/archives/764