伝送路の仕組み[1]ー 距離と形状

<更新情報>
2013年2月23日
 タイトルに概要を追加しました。

ここでは、伝送路について数回に分けて解説します。

目次
・伝送路について
・伝送距離
・伝送線路の形状(名前)
・同軸ケーブルの形状

伝送路について

伝送路の用語
伝送路のことを専門用語では「伝送線路 transmission line」と言います。この用語はあまりなじみがないようなので、タイトルの表記は「伝送路」にしました。
   
「線路」とはいっても鉄道の線路とは関係ありません。

   
電気の世界における伝送路は次の種類があり、ここでは1番目がテーマです。

・信号(情報)を伝える通信用の伝送路
・電力を伝える電源用の伝送路

厳密にいうと通信用の伝送路も電力を伝えます。信号の伝達には必ず電力を伴います。

大電力用の伝送路
電源用の伝送路は通信用と比較すると大電力で、使用する周波数は、現在はまだ低周波 (50Hzまたは60Hz) のみの領域です。

将来は宇宙空間で発電した電力を、マイクロ波(300MHz〜3THzの範囲)で地上に送信することも行われるでしょう。マイクロ波は通信の分野で使われていますが、大電力の伝送に使うようになると、そこで必要な技術は通信用とまったく変わらないどころか、現在の通信用とは比較にならない大電力を扱うことも考えられ、今にも増して高度の技術が必要です。

伝送線路は次の代表的な事柄と密接な関係があります。聞き慣れない用語があるかもしれませんが、避けて通ることはできません。これに関連する用語についても説明します。

・特性インピーダンス
・インピーダンス整合、反射
・分布定数回路(線路)

伝送距離

「通信」と聞くと、長い距離、たとえば数十メートル以上、あるいはもっと長い距離を連想するかもしれません。伝送線路が必要なのは長い距離だけではありません。電子回路では当然のように使うプリント配線基板でも伝送線路は必要です。

まずい設計では具体的に何が起こるのかというと、信号はうまく伝わらず、伝送エラーが頻発するか、または、まったく使用に耐えない事が起こります。

では、どれくらいの距離から関係するのか、これについてはある大きな「ヒント」があります。そのヒントとは何か?

たとえば、長さ10cmの距離でも、条件により伝送線路として設計しなければなりません。その条件は高い周波数を扱う場合です。

では、低い周波数では考えなくていいのでしょうか?

固定電話では必要です。「ヒント」の一つは波長と配線長の比率のことですが、電話線の配線長は極端に長いことがあり、伝送線路として設計することが必要です。

伝送線路の形状(名前)

伝送線路は、具体的には次の媒体を使用します。

・同軸ケーブル
・ツイスト・ペア・ケーブル
・その他の伝送線路用の媒体

この記事で説明する媒体は、具体的には電気(正確には電力)を伝える導線です。

導線は、電気的に絶縁するために絶縁皮膜を使います。第一の目的ですが、絶縁だけではありません。伝送線路においては、絶縁体の持つ特性である「誘電率 dielectric constant」は二番目の重要な役割があります。後ほど解説します。

同軸ケーブルの形状

同軸ケーブル (coaxial cable) は、多くの方が知っていると思います。これを使う最も身近な例は、テレビのアンテナ・ケーブルかと思います。VHFからUHF帯までの周波数を扱います。

周波数の分類
VHF  Very High Frequency 30〜300MHz
UHF  Ultra High Frequency 300MHz〜3GHz
アンテナを使用しないテレビ
光回線等を契約している場合は、個人宅のアンテナは不要です。ONU(光回線終端装置)などはインターネット回線から届く信号をテレビアンテナと同じ信号に変換します。変換した信号は、地上波と衛星放送向けの信号出力を備えます。この信号はアンテナで受信するものとまったく同じです。

同軸ケーブルは、図のように円形状で2本以上の導体の中心を重ねた格好をしています。一般的な単線の形状のワイアと比較すると、製造するのは難しくて簡単ではないと思いますが、なぜこんな形なのでしょうか。

同軸ケーブルの断面 Coaxial cable cross section
同軸ケーブルの断面 Coaxial cable cross section
特殊な同軸ケーブル
特殊なものでは、三重同軸ケーブル (triaxial cable)があります。中間の導体をガード電位 (guard voltage) につなぎ安定した計測を行うときなどに使用します。具体的には微小電流を測る用途やその他があります。(一般のものは二重同軸ですが、「二重同軸」という言い方はしないのが普通です。)

同軸ケーブルなどを用いて構成する「伝送線路」の用途は、主に高周波信号です。

高周波
この言葉は、相対的に周波数が高いことを表します。周波数の範囲については、明確な定義はありませんが、通信の世界では一般に無線通信に使う周波数帯です。オーディオ帯域では、低域と比較して高いほうをこのように呼ぶこともあります。つまり、高周波と低周波は相対的な比較をするときに使います。

何も考えずに単純なワイアでつないでも、信号はある程度伝わります。ところが、用途によっては少ししか使えないどころかまったく使えないことが起こります。

伝送線路は、後で説明する「特性インピーダンス」とは切っても切れません。それほど重要です。その特性を実現するには、形状には、重要な意味があります。仕組みを理解するには、まず電気信号の伝わる原理を知る必要があります。

次の記事「伝送路の仕組み[2]ー 電流とは何?(電流の性質)」に続きます。