<更新情報>
2013年2月23日
タイトルに概要を追加しました。
この記事は「伝送路の仕組み[1]ー 距離と形状」」の続きです。
ここでは、電流はどのような働きをするのかについて解説します。伝送路においては高い周波数の信号を扱うために、電流がどのように働くのか知っておくのは重要です。
- 目次
- ・平行ワイアの電流
・スイッチをオンすると何が起きる?
- 電気の物理
- ここではあまり深いところまでは触れません。「電気」は普段の生活で使いますが、仕組みは非常に複雑で難解です。分かっているようで実は分からないことがある、その一つが「電気」です。ただ、深い所まで知らないと利用できない訳ではありません。できるだけ深いところまで知っておくと役に立つこともあります。
平行ワイアの電流
平行ワイアに電流を流すと、電界と磁界を発生します。その様子を次の図に表します。いきなり重要なことを書きますが、電力(=電流×電圧 単位はワットW)を運ぶのは、ワイアでも電子でもなく電界と磁界のしわざです。電界と磁界は光と同じ速度でワイアの周りを伝播します。[1]
電源電圧が電子の移動をうながし電流を生じると、電流は磁界を誘起します。ワイアの周りに発生する磁界は電流が姿を変えたものです。また、二本のワイアの間に生じる電界は、電圧が姿を変えた別の表現です。ワイアの働きは、電界と磁界を運ぶガイドの役目をします。つまり、ワイアそのものが電力を伝えるのではないのです。[1]
平行ワイアの周りにできる電界と磁界はガイドされた波で、そのままではワイアの周りを移動するだけです。これは、アンテナから放出する電波(電磁波)と同じものなのですが、アンテナは電界を形成する電気力線と磁界を形成する磁力線を空間に放射しやすいように工夫した構造で作られています。[1] 電磁波は磁界と電界が交互に発生し、何もない真空中でもエネルギーを伝える現象です。
- 光通信
- 光ファイバーによる通信は、電流ではなく「光」を使用しますが、電磁波の一種であるにも関わらず、電気信号とはかなり対照的です。
光通信では、電気信号を使うものよりはるかに大容量の情報を伝えることができます。その仕組みは周波数にありますが、本格的な研究はまだ始まったばかりに近い状況です。光源には主にレーザー光を使います。光は外部からの「電磁誘導の影響を受けない」ノイズに強い特性があり、通信装置の設計にとってはとても大きなメリットです。同軸ケーブルではこの特性は得られません。
しかし、良く考えると非常に不思議で仕方ありません。光は電磁波の一種であり、電界と磁界に関係するのに電磁誘導の影響を受けないのです。
光は、電磁波(電波)の一種ですが、現代物理学の理論では「光子 photon」でもあり、波と粒子の二重の性質があり、非常に難解です。
スイッチをオンすると何が起きる?
➔ スイッチをオンしたときの様子 [2]
ここでは、スイッチをオンしてからの電気の動きについて考えます。分かっているようで、実はまったく理解していないことが多いのではないかと思います。
図のように電源と負荷は300Km離れています。電流の流れる速さは光の速度(位相の伝播速度)と等しい値で、真空中では約30万Km (3×108m)毎秒です。(2.99792456×108m/sec)
実際には、絶縁体の誘電率の影響で速度は影響を受けます。
ところが、「電流の速度」=「電子の移動速度」ではありません。電子の移動速度は数ミリメートル毎秒で、桁違いです。「電流」は電子の移動と密接に関係しますが、明らかにこれとは別の物理現象です。
- 光の速度と波長短縮率
- 電流の速度は、絶縁体の誘電率 (Dielectric constant)に関係しますが、真空中以外では光速よりも落ちます。この比率を「波長短縮率」と呼び、低下した速度の割合はこれと等しい値です。このとき周波数は変化しません。(誘電率の値により電流の伝播速度は遅く、波長も短くなります。一般の同軸ケーブルでは65%程度で、実際には誘電率が異なると変わります。)
- 光速度は一定不変
- ここでもう分からなくなりました。
この問題に関して、電気・電子・通信等の分野で触れている資料は、わずかな例外を除き見たことがありません。アインシュタインの相対性理論との関係をあなたならどう説明しますか? この理論に照らすと「波長短縮率」は大きく矛盾します。これでは、うまく説明することができません。
「光速度は常に一定不変」であり、速度に関する物理現象を説明するときの基準は光速です。この事はいろんな実験でも確認されており、確かさは疑いようがないと思われます。しかし、同軸ケーブル等で実際に観測するとき遅くなるように見えるのは、実験では間違いないとしか考えられませんが、何らかの理由で「そのように見える」ということです。(オシロスコープがあれば簡単に確かめることができます。)
電気の世界の分野についての本や文献で、この問題に触れるものは見たことがない理由はおそらく、電気の世界では相対性理論を無視しても特に不都合はないこと、何と言っても説明するのがとても難しいからでしょう。
この問題に触れているのは、今まで知る限りは次のサイトだけです。ここでは、「誘電体中では電磁波の速度は低下するのか」という問いがありますが、これについて考えると電気(また電磁波と光)はとても難解であることを痛感します。
横道にそれましたが、本題に戻ります。スイッチをオンすると2本の導線の間に電界と磁界を生じます。電界は2本の導線の間に発生し、磁界は1本の導線について進行方向の右回りに発生します。
300Km先まではまだ届かないので、電界と磁界はスイッチの近辺だけにある状態です。電界と磁界はは2本の導線の間を少しずつ(光速で)移動します。スイッチオンから10ns後は、図のようにわずかに3メートルしか進んでいません。300Km先に到達するまでに1ms(ミリ秒)かかります。負荷まで達するとランプが点灯します。
150Kmの位置にもう一つのランプが直列につながるとどうでしょうか?
中間のランプには、電界と磁界は先に到達するので、最初に点灯します。
このように電流の伝わる速さも有限の値であり、瞬間に伝わるのではなく時間がかかります。
スイッチをオンしてから1ミリ秒を経過すると、図のように電流は負荷まで伝わり、電界と磁界もワイア全体を覆い尽くします。
- 現実には
- 実際には波長短縮率が関係するのでもう少し時間はかかります。(正確には、そのように見える。)5割増しほどですが、ここでは細かいことは無視します。
電球の反応速度(電流を流してから点灯するまで)は無視します。白熱電球の反応は遅いので電流を流してもすぐには点灯しません。高速のLED (Light Emitting Diode) ならば速く、手元にあるかなり古い資料ですが、10nsで点灯するものがあります。
実際にこの回路を作ると、おそらく電線の持つ内部抵抗が問題です。負荷に届くまでには内部抵抗による電圧降下が大きすぎて、電球は点灯しないかもしれません。(ワイアの直径と材料から内部抵抗による電圧降下は簡単に計算できます。)ここでは単純化して考えることにし、この影響は無視します。
負荷までの長さを千分の一の300メートルにして短くすると、現実的な条件に近づきます。この場合は、電源から負荷まで1μ秒で到達します。電球は点灯するはずですが、反応は変わらず遅いので反応速度を見るには電球ではまったく適していません。
➔ 交流信号1KHzの場合 [2]
次に、直流電源の代わりに交流1KHzに変更します。1KHzの波長はちょうど300Kmですが、交流信号を流すと、電圧は位相の変化に伴い図のように変化します。電界は、電圧の高いところでは強く低いところでは弱まります。(図では本数の違いで表現。)磁界の強さも同様です。図は、1ミリ秒経過後の状態です。
ここでも誘電率などの細かいことは無視します。
オシロスコープで1KHzの正弦波を表示すると、1波長は300Kmもあることを忘れがちです。画面に表示する1KHzの1波長が短いように見えるのは錯覚です。50Hzの波長では6000Kmもあります。(波長短縮率により、実際にはもう少し短く見えます。)
- 音波との対比
- 音波の波長はこれほど長くありません。音波の速度はマッハ1で、日常生活では速いですが、電気信号より桁違いに遅く秒速340メートルです。したがって1KHzの波長は0.34メートルしかありません。
この図で、交流信号を伝えるのは大変であることがお分かりでしょうか。場所により電圧の分布は大きく異なることが分かります。1KHzでもこのありさまですが、周波数が高いと電圧分布の異なる場所はもっとたくさん発生します。
➔ 交流信号1GHzの場合
今度は、1KHzの代わりに1GHzの信号源を使います。1GHzの波長は30cmです。30cmごとに電圧の高い低いを繰り返しますので、電界と磁界も同じように変化します。
これくらいになると、ほんの数メートルの距離でも電圧分布の異なる場所がそこらじゅうに生じることが分かります。
これまでの説明で、高周波信号を伝えるのは難しそうだということを、なんとなく理解していただけたでしょうか。
実は、この部分を書くにあたりいくつかの文献を参考にしましたが、「高周波信号を正確に伝送することはなかなか難しい」ことを、特に初心者の方に説明することは、とても大変なことが分かりました。おそらく自分自身の理解がまだまだ足りないからでしょう。
次の記事「伝送路の仕組み[3]ー 伝送路の特性」に続きます。
参考資料
[1] 電磁波とは何か 後藤尚久 箸 1997年 講談社 刊
[2] 高周波回路の設計と実装
宮本幸彦 箸 1989年 日本放送出版協会 刊
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