<更新情報>
2016年7月13日
訂正があります。
最初のほうで「シールド付きのケーブルは、<途中略> 電磁誘導ノイズは遮蔽できません。」と書きましたが、誤解を招く文章でした。ケーブルのシールドには電磁誘導ノイズの遮蔽効果はありませんが、ツイストペアケーブルそのものは、構造からくる電磁誘導ノイズを防ぐ一定の遮蔽効果があります。
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この記事は「伝送路の仕組み[4]ー 同軸ケーブル」の続きです。
- 目次
- ・ツイストペア・ケーブルの構造と特性
・特性インピーダンス
ツイストペア・ケーブルの構造と特性
構造
ツイストペア・ケーブル (twisted pair cable)は、ほとんどの方が見たことがあるはずです。LANケーブルに良く使われます。構造は単純で、1対2本またはこれ以上のペア数のワイアを一定間隔でひねり(ツイスト twist)を入れたものです。
- なかには、外見は平行ワイアのように見える、2本ずつツイストした2対のものなどがあります。
シールド付きのケーブルは、次の下の図のように静電シールド (electrostatic shield)を施したもので、容量結合 (capacitive coupling) によるノイズを遮蔽します。電磁誘導ノイズは遮蔽できません。
- ケーブルのシールドには電磁誘導ノイズの遮蔽効果はありませんが、ツイストペアケーブルそのものは、構造からくる電磁誘導ノイズを防ぐ一定の遮蔽効果があります。
- 容量結合
- ワイアの近くに金属などの導体があると、両者の間には容量(capacitor、キャパシタ)が発生します。その容量を通じてノイズが侵入する経路ができます。静電シールドはこの経路を遮蔽します。(キャパシタはコンデンサとも言いますが、「condenser」は、キャパシタとはまったく別の機能を備えた部品や装置です。)
静電シールドは割と簡単に目的の性能を達成できます。ケーブルのシールドは、まず網目状のワイアで構成しますが、高い周波数では遮蔽特性が十分ではありません。たとえば同軸ケーブルでは、特性を補うために金属のフォイルも併用します。
外来ノイズ
次の図は、ツイストペア・ケーブルに外来ノイズが侵入する時のある瞬間の様子を模式的に表したものです。
- ・図の「外来ノイズ」はたまたま図の方向の磁力線が通過する時の様子です。次の瞬間にはどの向きから侵入するのかまったく予測できません。ノイズとはそういうものだからです。さらに、現実の環境において、ある瞬間にノイズ源は一つであるとは限りません。つまり、複数の方向からやって来る磁力線が同時に侵入することも考えられます。
ツイストペア・ケーブルが電磁誘導 (electromagnetic induction)によるノイズを防ぐ仕組みは、ケーブルの「ひねり」の効果にあります。
ある瞬間に、外来ノイズがケーブルに前の図と同じように侵入すると、ケーブルには次の図の向きの起電力 (electromotive force) が発生します(フレミングの右手の法則)。(もちろん、前述のように次の瞬間にはどうなるのか、まったく予測できません。)
図ではそれぞれのワイアにおいて、打ち消し合う起電力が発生することが分かります。このような理想的な状態では、外来ノイズはケーブル内でバランスして打ち消し合います。
理想的な条件では、2本のワイアに誘起した電流は打ち消しますが、現実はそれほどうまくいくとは限りません。磁界の分布が一様であるとは限らず、また、ツイストのピッチより細かい磁界の変化を打ち消すことはできません。
外来ノイズは2本のケーブルのすきまだけを都合良く通過する訳ではありません。
外来ノイズの磁力線が次の図のように通過するとツイストペア・ケーブルの2本のワイアには同じノイズ電流が発生します。(同相ノイズ、common mode noise)この状況では、ツイストペア・ケーブルのひねりの効果はありません。
- ドライバとレシーバは共通の接地 (グランド、ground) につなぎます。目的はいろいろあります。電源の基準電位、保安用の接地、その他です。
同相ノイズと平衡伝送
同相ノイズを除去するには、差動信号 (differential signal) を使う平衡伝送線路 (balanced transmisison line)を使うことが必要です。差動ラインレシーバ (differential line receiver) は、差動信号、つまり、2本のワイア上にあるノイズを含めた信号の差分のみを拾いますから、同相ノイズを効果的に拾わないようにすることができます。
差動レシーバの特性を最大限に生かすには、注意があります。理想は、2本のそれぞれのワイアとグランド間のインピーダンス(終端抵抗)が等しくないといけませんが、現実には難しい場合もあります。理想的ではない条件でも、実際にツイストペア・ケーブルを使うと効果があるのは、不完全でもある程度同相成分を除去できることによるためです。
ツイストペア・ケーブル内部のノイズ
ツイストペア・ケーブルは、最初のほうで述べたように、外からやって来るノイズには強いのですがノイズ源は外だけではありません。複数ペアのワイアを1本にまとめたケーブルでは、一つのペアの信号は他のペアにとってはノイズ源です。
ワイアを流れる信号は、空間の近くに別の導体が存在すると、干渉する問題が起こります。「ひねり」のピッチが同一である場合は影響を受けやすく、ピッチを変えると受けにくくすることができます。
ワイアのペアが複数の場合は、一つのペアは別のペアと干渉します。干渉の度合いをできるだけ減らすためには、ペアごとにピッチを変えます。
- 信号とノイズの違い
- 「信号」と「ノイズ」の違いは、極論するとそれが必要であるか、またはそうでないかの違いだけです。ある回路が生成する「信号」は、干渉しなければ何も問題ありませんが、干渉する問題が発生する場合は、他の回路にとっては余計で邪魔な存在です。干渉する「信号」は他の回路にとっては「ノイズ」でしかありません。
特性インピーダンス
ツイストペア・ケーブルの特性インピーダンスZOは、図の式で計算でき、使用する材料と寸法により決まります。[8]
- 図中の「自由空間の特性インピーダンス」の詳細については、次の記事の図をご参照ください。
ついでに、平行ワイアの特性インピーダンスを求める計算式も載せておきます。[8]
次の記事「伝送路の仕組み[6]ー プリント基板(PCB)伝送線路」に続きます。
参考資料
[8] Transmission Line Handbook
B. C. Wadaell 箸 1991年 Artech House, Inc. 刊