プリント基板 (PCB) 上の伝送線路
この記事は、伝送路の仕組み[5]ー ツイストペア・ケーブルの続きです。
回路ブロックや機器どおしをつなぐ用途には、同軸ケーブル等のワイアによる伝送線路を使います。
プリント基板 (PCB Printed Circuit Board) 上の二つのブロックをつなぐ伝送線路にも、ワイアを使うことはもちろんできますが、プリント基板ならではの構造を利用する手があります。PCB専用の造り付けのものを構成する方法です。
種類
PCB上に形成する伝送線路で最も代表的なものは、マイクロ・ストリップラインやストリップラインです。数多くの種類が存在しますが、代表的なものを紹介します。
- プリント基板に使う伝送線路の例
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導体の層数 名称 1 コプレーナ・ウェーブガイド
Coplanar Waveguide2 グランド付きコプレーナ・ウェーブガイド
Coplanar Waveguide with ground1 非対称コプレーナ・ウェーブガイド
Asymmetric Coplanar Waveguide1 コプレーナ・ストリップ
Coplanar Strips1 非対称コプレーナ・ストリップ
Asymmetric Coplanar Strips2 マイクロ・ストリップライン
Microstrip line2 埋め込み型マイクロ・ストリップライン
Embedded (buried) Microstrip line1 マイクロ・コプレーナ・ストリップライン
Micro-Coplanar Stripline3 体心ストリップライン
Centered Stripline
それぞれの断面図は記事の最後に添付します。
(最初の「コプレーナ・ウェーブガイド」の断面図は省略します。「グランド付きコプレーナ・ウェーブガイド」から対面の「グランド」を取り除いたものです。)
- 伝送線路
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高速・広帯域の信号や高い周波数を扱う回路では、信号を伝送するとき正しい設計の伝送線路を欠くことはできません。
ここで、「高速」とは信号の立ち上がり(立ち下がりも同義)時間が短いことを表します。立ち上がり時間は周波数に関係しますが、周波数ドメインで観測すると広い範囲の周波数を含み「広帯域」と等価です。「高い周波数」の意味は、伝送路の長さと信号波長の相対的な比率を表します。
このような信号を扱う回路では、反射やリンギング等の障害をできるだけ減らすことが重要です。正しい設計に基づく伝送線路は必須です。
- 参考記事
- 伝送線路について詳細は次の記事を参考にどうぞ。
伝送路の仕組み[1]ー 距離と形状
伝送路の仕組み[2]ー 電流とは何?(電流の性質)
伝送路の仕組み[3]ー 伝送路の特性
伝送路の仕組み[4]ー 同軸ケーブル
伝送路の仕組み[5]ー ツイストペア・ケーブル
- 和製英語
- 間違った印象を与えたくありませんから、ご存知ない人のためにあえて説明します。
「ストリップ」と聞くと、勘違いする人がいそうです。「ストリップ・ショー」は和製英語であり、英語圏では通じません。これは言い始めた人の責任ですが、単語「ストリップ」にはそのような意味はありません。この用法の正しい表現は、striptease show です。
特性インピーダンス
PCB用伝送線路は他の伝送線路と同じで、特性インピーダンスは、構造と物理的な寸法、絶縁体の比誘電率で決まります。
- 特性インピーダンス characteristic impedance
- 伝送線路において、信号を正確に伝えるにはこの項目に無関心ではいられません。詳細は次の記事を参考にどうぞ
伝送路の仕組み[3]ー 伝送路の特性 - 比誘電率 dielectric constant (relative permittivity)
- 媒質の誘電率と真空の誘電率の比を表す。
特性インピーダンスに関係します。さらに、この記事では触れませんが、電流の(みかけの)伝播(でんぱ)速度 (propagation velocity ひらたく言えば電気の伝わる早さ) にも影響します。
絶縁体の比誘電率は、周波数により変化し常に一定ではありません。(※1)さらに、経験上から言えることですが、周波数は固定の条件で、同じメーカーの同一の材料でも値がばらつくことがあります。
比誘電率の具体的な例は、たとえば、FR-4 基板はよく使われる材料の一つですが、 1MHzで 4.0〜4.8 程度です。
- FR-4 Frame Retandant Type-4
- 絶縁材の材料は、ガラス繊維をエポキシ樹脂で固めたもの。
パラメータ 例 絶縁体の厚み 良く使われる寸法の一つは 1.6 mm
(基板の全ての層)導体の厚み 良く使われる寸法の一つは 35µm 比誘電率 FR-4 は4.0〜4.8
PCB用伝送線路の構造と特性インピーダンス
共通のパラメータ
まず、それぞれの計算式に使用する共通のパラメータを定義します。
ペア・ストリップ Paired Strips
聞き慣れないかと思いますが、「ペア・ストリップ Paired Strips」は「平行ワイア」または「ツイストペア」に相当する PCB (Printed Circuit Board) 版です。2層の導体と絶縁体で構成します。
同一平面の導体による伝送線路
「コプレーナ・OO」のグループは、「マイクロ・ストリップライン」や「ストリップライン」とは明確な違いがあります。その特徴は、「coplanar 同一平面の」の名前のとおり、1層のみの導体と絶縁体で形成できる点です。(ただし、対面のグランドを使用するものもあります。)したがって、片面基板でも構成できます。
コプレーナ・ストリップ Coplanar Strips
「coplanar 同一平面の」のとおり、導体部分を1層のみで形成でき片面基板で構成できます。
- 「コプレーナ・ウェーブガイド Coplanar Waveguide」との相違点
- 次に説明する「コプレーナ・ウェーブガイド Coplanar Waveguide」には、ホット側の同一平面の両側にグランドがあるのに対し、「コプレーナ・ストリップ Coplanar strip」では、グランドは片側のみです。
- ホット側
- 正式な呼び方かどうか分かりませんが、「不平衡線路 unbalanced line」では接地しないほうを俗にこう言います。接地するほうは「コールド側」です。
- 不平衡線路 unbalanced line
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「信号の通り道」に専用ではない(回路に共通の)グランドを使用する線路です。
これに対し、「平衡線路 balanced line」は、信号の通り道にグランドを使用せず、代わりに専用線を使います。ツイストペアなどが該当します。「平衡線路」は2本の線のインピーダンスが等しいことが理想ですが、現実の線路において厳密に等しくすることはできないことが珍しくありません。
「平衡線路」と「不平衡線路」の違いは、一般に平衡線路はノイズに強く、不平衡線路はノイズに弱い特性です。ただし、不平衡線路に属するインピーダンス・マッチングを行う伝送線路はそうではなく「耐ノイズ性能」が高い特徴があります。
コプレーナ・ウェーブガイド Coplanar Waveguide
「ホット側」を同一平面のグランドで両側をはさむ構造です。名前「coplanar 同一平面の」のとおり、導体は1層のみで構成します。
この構造の特性インピーダンスを表す式はとても複雑です。ここでは、対面グランド付きでより簡単なものを紹介します。(当然ながら、導体は2層必要です。)
- 「コプレーナ・ストリップ Coplanar Strips」との相違点
- 「コプレーナ・ウェーブガイド waveguide」は「ホット側」の両側に同一層のグランドを配置しますが、「コプレーナ・ストリップ Coplanar strip」は、同一層のグランドは片側のみです。
4. マイクロ・ストリップライン Microstrip line
「マイクロ・ストリップライン」は、おそらく最も良く知られた構造の伝送線路です。作成するのは割と簡単です。Harold Wheeler 氏により1936年に開発されました。この構造は、第二次世界大戦の後に、この次に説明する「ストリップライン」に発展しました。
特徴は、2層の導体と絶縁体で形成し、両面基板で構成することができます。
- 「ストリップライン Stripline」との相違点
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「ストリップライン Stripline」は、3層の導体を使用する点が異なります。(「マイクロ」等が付かないもの)
「マイクロ」は「小さい」や「微少」の意味がありますが、伝送線路においてもより微少化した構造を意味するらしく、「Stripline」は3層の導体を使用するのに対し、Micro Stripline では2層、Micro-Coplanar Stripline は1層のみで構成します。
ストリップライン Stripline
3層の導体と絶縁体で構成します。
これに限りませんが、いろいろな研究者が計算式を発表しており、式は研究者により異なります。(資料に記載してある式は、その資料の執筆者が開発したものであることは稀で、多くは引用です。)
それぞれの式ごとに特徴があります。たとえば、簡略な式は簡単に計算できますが、条件により大きな誤差を伴います。「ストリップライン」については、比較の意味もあり4種類の計算式を紹介します。
ストリップラインの構造と式 -A
ストリップラインの構造と式 -B
ストリップラインの構造と式 -C1
ストリップラインの構造と式 -C2
伝送線路の一覧(抜粋)
冒頭に記しましたが、いくつかの伝送線路について断面図を記載しておきます。
参考資料
- ※1
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Printed Circuits Handbook
C. F. Coombs 著 1979年 McGraw-Hill 刊 - ※2
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Transmission Line Design Handbook
B. C. Wadell 著 1991年 Artech House 刊 - ※3
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Antenna Engineering Handbook
H. Jasik, R. V. Roman, 他38名 共著 1961年 McGraw-Hill 刊 - ※4
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High-Speed Digital Design A handbook of black magic
H. W. Johnson, M. Graham 共著 1993年 Prentice Hall 刊