60GHz帯の無線伝送技術

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<更新情報>
2012.05.12
  記事のカテゴリを変更しました。
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60GHz帯の周波数を使う無線伝送技術の開発が活発化しています。

最近では、NTTや東工大とソニーの共同開発のニュースがあります。

その特徴は、何と言っても非常に高速な伝送が期待できる点です。57〜66GHz
に割り当てたチャンネルを利用すると、理論上は15Gbps(15ギガビット毎秒)
もの速度を得ることができます。

2011年9月の電波法の改正により、免許不要で利用できる60GHz帯の帯域幅は
少し広がりましたが、この影響もあります。

15Gbpsは、とんでもない速さです。

たとえば、フルハイビジョンの動画を録画すると、1時間あたり約330GB
(ギガバイト)の容量ですが、15Gbpsで伝送すると約3分です。

  この条件では、普通に計算すると、容量は倍の670GBです。人間の目の特性を
  利用し、動画では色の変化には鈍感で解像度を落としても判別できず、画質
  の劣化は分かりません。2/3から半分程度に容量を落とすことができます。
  
  この状態は、まだ圧縮しない画像です。(厳密にはこれも圧縮ですが、一般
  にはそう言いません)
  
  ほとんどの場合は、さらに圧縮します。動画の圧縮方法は、MPEG2、MPEG4
  やH.264などがあります。圧縮すると画質は一般に劣化します。
  
  「圧縮」方式のほとんどは、情報を切り捨てます。(非可逆圧縮)切り落とす
  のは、無くても画質にあまり影響しない部分のデータです。「非可逆圧縮」は、
  伸張しても完全に元に戻りませんが、圧縮率を高くできます。
  
  「可逆圧縮」は、伸張して完全に元に戻すことができますが、高い圧縮率に
  できない欠点があります。つまり、ディスクなどのストレージの容量を余計に
  消費します。

  「圧縮」というとふくらました風船を小さくするようなイメージがあると思い
  ますが、ほとんどは「非可逆圧縮」で、完全に元に戻すことはできません。

話がそれました。

長々と「圧縮」について書きましたが、伝送速度が上がると圧縮しない巨大な
データを素早く伝送できるようになります。

ただ、速度15Gbpsは、あくまで理論上の最大速度です。

NTTが開発した小型モジュールは、3.8Gbpsを実現します。ソニーと東工大の
共同開発のものは6.3Gbpsです。

最近の大きな研究成果は、小型化と低消費電力を実現する点です。

大きさに無関係で大量に電気を消費する装置は、以前にもあった訳ですが、
モバイル機器に対応することを考えています。

個々の装置と方式により違いますが、ソニーと東工大の装置では、復調回路
ブロックの消費電力は100mWを下回ります。この部分だけでは、もちろん
装置は成立しませんが、装置全体の実現に貢献します。

ハードウェアの高性能化だけではなく、誤り訂正の方式において付加情報を
大きく削減する方式も開発しています。このことが低消費電力にできた
一つの要因ではないかと思います。

  変調や復調(複合化)については、次の記事を参考にどうぞ。

  伝送データの符号化
  http://wimax-page.123-info.net/archives/268

低消費電力を実現できた要因は、一言でいうとテクノロジーの進歩です。
具体的には位相ノイズの低減により、高精度の多値変調を使えるようになった、
などの点です。

このように書くのは簡単なことですが、実現するまでには相当な苦労があった
ようです。

  「多値変調」は、同じ帯域幅の伝送路で伝送データ量を上げる技術です。
  変調について、詳しくは次の記事をどうぞ。
  
  モデムとは
  http://wimax-page.123-info.net/archives/330

通信装置の多くは、「トランシーバ回路」というブロックを多用します。

ソニーと東工大のトランシーバ回路は、送信部が200mW弱、受信部が100mW強の
性能を実現しています。(装置では、もちろん他の回路ブロックも必要です)

  「トランシーバ」とは、ハンディ型の無線機のことではありません。送信と
  受信を行う回路で、共通の回路部分を使う仕組みのことを言います。
  無線機のトランシーバの名前は、その仕組みからきています。

伝送速度は、変調方式により違いがあります。
QPSK変調では3.52Gbps、16QAMでは7.04Gbpsを実現しています。

  変調について、詳しくは上記の記事「モデムとは」をどうぞ。