超高速無線LAN規格 5G WiFi

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<更新情報>
2012.08.16 新しい記事へのリンクを設けました。
記事名 MIMOとは

「伝送速度」という表現はあまり適切ではないようです。「伝送レート」に改めました。
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言うまでもありませんが、「無線通信」は、読んで字のごとく、ワイアを使わず(多くの場合は電波により)さまざまなデータを伝送できて、大変便利です。

静止画像や動画などのデータは、高精細化の一途をたどり、その容量はますます増えるばかりです。高速化は移動端末の使い勝手に大きく影響します。

二つの規格 802.11acと802.11ad

二つの規格に注目が集まっていますが、いよいよ実用化の段階に来ました。「IEEE 802.ac」と「IEEE 802.ad」です。1 Gbpsを超える世界です。

  1Gbps 1 Giga bit per second
      1ギガビット毎秒

規格の名称について、「802.11ac」は「802.11n」の進化形であることが、規格に詳しい専門家ならともかく、一般には分かりにくいと思います。

携帯電話では、「3G」とか「4G」の呼び方が普通で、こちらのほうが分かりやすいです。無線LANでもこれに習い「5G WiFi」の呼び名を広める動きがあります。

IEEE 802.11ac規格

802.11acは5GHz帯を使います。規格上のシステム公称レート(速度)は、6.9Gbpsです。(規格の上限値)

「公称レート」は、ユーザーがすべて利用できることを意味しません。さまざまな要因により、ユーザーが利用できる「実効レート」は、条件が悪いと公称レートの数分の一しかないこともあります。

次の記事を参考にどうぞ。

  無線LANの実効速度
  http://wimax-page.123-info.net/archives/248

現時点では、正式な規格書は存在せず、IEEEのドラフト版も入手できていませんが、「6Gbps以上」というのは間違いないようです。

802.11acの伝送レートについて、インターネットの情報では「3.6Gbps」の数値も見かけます。通信事業者の大手が公開する資料や、半導体メーカーが発表する製品の性能から考えると、「6Gbps以上」は確実です。

802.11acは、「MU-MIMO」や「送信ビームフォーミング」などの技術を使い実現しています。

省略語 説明
MU-MIMO Multi-User MIMO マルチユーザー空間分割多元接続
MIMO Multiple Input Multiple Output 複数の通信路(チャンネル)を設け伝送レートを上げる仕組み
送信ビームフォーミング ビームフォーミングは、近接する基地局が同じ周波数帯域を使えるようにする技術。送信側と受信側のそれぞれがある。(近接する基地局では、この技術なしに同じ周波数帯域を使用できない。)

  MIMOについては次の記事を参考にどうぞ。
  MIMOとは
  http://wimax-page.123-info.net/archives/1334

これだけでなく、他にも802.11aや802.11nなどでも使われている「OFDM」の技術も利用しています。

省略語 説明
OFDM Orthogonal Frequency Division Multiplexing 直交周波数分割多重方式 名前からは分かりにくいが、「変調方式」の一種で、データを多数の搬送波(サブキャリア)に乗せる変調方式。悪い状況の伝送路に強いのが特徴。

「変調」については、次の記事を参考にどうぞ。
「デジタル変調の方式」の項に概要を説明してあります。

  モデムとは
  http://wimax-page.123-info.net/archives/330 

IEEE 802.11ad規格

もう一つの802.11adは60GHz帯を使います。システムの公称レート(速度)は、6.8Gbpsです。

周波数が高く広い帯域幅を確保できると伝送レートを上げることができます。802.11acより少し低いレートに抑えた理由の詳細は知りませんが、あくまで規格の上限値であり、理論上は802.11acより高速化できるはずです。

利用する電波の環境については、60GHzの周波数帯は無線局の免許なしで使える帯域が広いという状況があります。

無線を利用する装置は、基本的には無線局の免許が必要です。しかし、データ通信の利用者は非常に多く、免許が必要ならば製品はあまり普及しません。そこで、免許なしに使える周波数帯を利用します。

ただ、周波数が高いといい点ばかりではなく、直進性が強まり、見えない範囲には到達しない性質が現れます。802.11adの最大距離は10メートルです。

距離は、送信電力とアンテナの利得などにより決まり、この規格では10メートルの範囲ということです。

送信電力が大きいほど遠くまで届きます。説明の必要はないと思いますが、水面にできる大きい波と小さい波を想像すると分かります。

到達距離は、送信電力だけでは決まりません。最後は受信機の感度で決まります。送信機のアンテナの利得が高いと、それだけ大きな波が発生します。受信機のアンテナの利得が高いと弱い電界強度でも受信する信号は強まり、受信機の感度が高いとさらに小さい信号も受信できます。

  

用語 説明
アンテナの利得 電気信号と電波の両者の間で変換する効率
電界強度 空間の電波の強さを表す

製品

802.11acは、最大「6.9Gbps」です。言葉で言うのは簡単ですが、現実の製品を開発し提供するのは、技術やコストの点で高い壁があります。

この世界に携わっていたり関係がある、もしくは経験のある方ならお分かりですが、これほどのレートまたは周波数では、つないだだけでは信号が伝わりません。知らない方には理解できないことですが、乾電池と豆電球をつなぐのとは訳が違います。つなぐ技術が必要で、それだけ難しい世界であり、高周波・高速伝送技術その他の知識なしに扱うことはできません。

第1世代の無線LANチップを使うものでは、次のような製品があります。

バッファローが、CES (Consumer Electronics Show)でデモした製品では800 Mbpsです。1.3Gbpsまでは上がるらしく、今年の第3四半期には市場に投入するようです。

市場の要求

2008〜2009年ころにも1Gbpsを超えるものを作ろうとする機運はありました。大手家電メーカーのデジタルテレビで、ハイビジョン映像を高速で伝送するのが狙いでした。

しかし、製品化の動きは広がりませんでした。ネットワークにつながる機器がなくメリットがないとか、リーマンショックによる景気悪化などの理由もあったようです。

スマートフォンやタブレットPCの台数は、2010年ころから急激に増加しているようで、無線LAN機能を標準搭載しています。無線LANを使うと、携帯回線の混雑は緩和します。ところが、WiFiスポットにアクセスが集中し、今度はこちらが混雑し始める状況が発生しています。

次の記事の「「11n」の5GHz帯」の項でも説明しましたが、802.11n規格は、2.4GHz帯と5GHz帯の2種類あります。
  
記事の図を参考にどうぞ。

  無線LANの接続形態
  http://wimax-page.123-info.net/archives/123

2.4GHz帯は14チャンネルありますが、少しずつ重なり、電波の干渉を避けると、実質は3チャンネルしかないようにみえます。5GHz帯は19チャンネルあり、こちらはまるまる使えます。

家電などのあらゆる機器に、無線LANの機能を搭載し始めると802.11nも混雑すると思われます。

802.11acにより伝送レートが上がると、チャンネルを占有する時間は減ることが考えられます。また、802.11adの追加により使用できる電波リソース(60GHz帯)は増加し、このような理由により混雑解消につながると思われます。

業界団体の動きと規格化

802.11acと802.11adについては、米国の業界団体であるWiFi Alliance は積極的な活動を行っている模様です。

通信技術においても、今までの資産が使える仕組みである「互換性」は重要です。つまり、たとえば802.11acの機器を使う場合に、相手側が802.11b/g/nであってもつながらないと不便です。互換性は、この仕組みを備えるものです。

また、メーカーなどが異なっても確実につながることを保証する「相互接続性」も大事です。  
次の記事を参考にどうぞ

  WiFiとは
  http://wimax-page.123-info.net/archives/60

規格化については、WiFi Allianceは、802.11acが802.11nの後継規格であることを明確に表明しました。

802.11ac規格の標準化作業は、2013年に完了し、802.11adは2012年12月には完了する見込みです。2012年下半期には、802.11acの認証プログラムが始まるようです。

半導体製品

半導体メーカー数社は、802.11acに準拠の無線LANチップの製品化を発表しました。

一つの例ををあげると、

Qualcomm社とWilocity社は、無線通信モジュールAR9004TBを共同開発しており、2.4GH帯、5GHz帯、60GHz帯のトライ(3つの)バンドに対応します。60GHz帯のチップセットと802.11nの無線LANチップで構成します。サンプル出荷を始めました。

  Qualcomm Atheros and Wilocity Announce Tri-band Wi-Fi: Industry’s First Standards-compliant, Multi-gigabit Wireless Chipset
  http://www.qualcomm.com/media/releases/2011/05/31/qualcomm-atheros-and-wilocity-announce-tri-band-wi-fi-industry-s-first-sta

このニュースソースには見あたりませんが、日本国内のニュース記事によると、伝送レートは最大4.6Gbpsで、量産は2012年後半を予定しているようです。