伝送路の仕組み[4]ー 同軸ケーブル

<更新情報>
2014年1月12日
  次の箇所に説明を追加しました。
  「同軸ケーブルの構造と特性」

2013年2月23日
  次の箇所に説明を追加しました。
  「同軸ケーブルの特性インピーダンス」
  「その他の特性」
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この記事は「伝送路の仕組み[3]ー 伝送路の特性」の続きです。

目次
・同軸ケーブルの構造と特性
・同軸ケーブルの特性インピーダンス
・その他の特性

同軸ケーブルの構造と特性

同軸ケーブルの構造は、目標とする特性インピーダンスを実現するには理想の形状です。二本の導体の距離は安定しており、力を加わえない限り変化しません。

同軸ケーブルは、芯線の周りをシールドするので外来ノイズを遮断しやすく、また内側から外に向かう信号の拡散を防ぎやすい点です。

同軸ケーブルとノイズ Coaxial cable and Noise
同軸ケーブルとノイズ Coaxial cable and Noise

ある文献には「同軸ケーブルはノイズを完全に遮断できる」ということを堂々と書かれています。これは、一面は正しいですが、誤りです。ノイズに関して「完全に防ぐ」などというものはありません。

同軸ケーブルが遮断できるのは静電誘導ノイズです。「静電誘導」は、二つの回路や部品が「容量結合 capacity coupling」することにより発生します。二つの導電性物質が存在すると容量結合はそれだけで発生するのですが、電子回路に使う部品、配線、金属板の類いは例外なくすべて該当します。両者の間に別の電極をはさむと簡単に遮蔽することができます。同軸ケーブルの外側のシールドを品質の高いものにすると、この効果を最大限にできます。中にはシールドの網がスカスカのものがあり、高い周波数では効果は薄れます。

ノイズの伝わる仕組みは、残念ながらこれだけではありません。同軸ケーブルは「磁気誘導」ノイズの遮蔽効果はあまり期待できません。磁気誘導は、ループ状(閉じた回路)の経路やコイル状のワイアを磁力線が通過すると発生します。特に、周波数の高い領域では顕著で、同軸ケーブルのシールド効果は弱まります。[9] (ループ状の回路は、見た目だけではそれと分からないことが良くあります。)

電磁誘導ノイズの対策は、磁気シールドを施す必要があり、静電シールドよりもはるかに大変で、手軽に簡単に行う方法はありません。例外は、ワイアの「縒り」による効果で、最初から「縒り対」にしたものが「ツイストペア・ケーブル」です。(ただし、利点ばかりではなく注意点もあります。詳細は「ツイストペア・ケーブル」の記事で記載する予定です。)

磁気誘導または電磁誘導によるノイズ
同軸ケーブルは、電磁誘導によるノイズを防ぐ効果を備えます。この記事を書いた当初は上記のように「磁気誘導」ノイズの遮蔽効果はあまり期待できません」と記しましたが、誤りと分かりました。訂正します。

次の記事を参考にどうぞ。
  同軸ケーブルとノイズ

しかし、接地ループが影響を与えることは確かです。ノイズによる影響は複雑で単純ではありません。接地ループと周波数の関係が絡むと厄介で、これをすっきりと解説する文献は見あたらないように思います。

ノイズに関してwebで検索すると、有名な文献からおいしい情報のみを抜き出して都合のいい解釈にまとめたとみえるものが大半です。

この問題が解決したときは記事にしたいと思います。
2014年1月12日 追記

ケーブルで発生するノイズ
ケーブル内部の絶縁体と導体との摩擦で発生するノイズの問題があります。ケーブルを動かすと摩擦による効果でノイズが発生します。低ノイズケーブルは、この特性に注目して改良したものです。

ある資料の例では、通常品と比べてノイズは1/20 (−26dB)程度に抑えることができます。ただし、特性インピーダンス Z0は通常のものと異なるようで、資料には、75Ωの通常品と比較し41Ωの低ノイズケーブルの例があります。

オーディオ帯域では、マイクロフォンにつないだコードを触ると雑音が聞こえます。こんな時に低雑音ケーブルは役に立ちます。

同軸ケーブルの特性インピーダンス

同軸ケーブルの特性インピーダンスZOは、図の式で計算でき、使用する材料と寸法により決まります。[8] 

式から分かりますが、絶縁体は絶縁するだけが目的ではなく、絶縁体の誘電率は特性インピーダンスに影響します。

汎用品のZOは、日本国内では50Ωと75Ωが多いですが、理由は、たまたま需要が多いからです。理論上は、他の事情を無視すると、ZOと送端または受端のインピーダンスを等しくすればいくらでも構いません。

計算式について
これに限りませんが、伝送線路のZOの計算式はいろいろな研究者が発表しており、それぞれいくつか存在します。図とは別の計算式もあります。
web上の計算機
次のサイトには自由に使用できる計算機があります。興味のある方は試してみてはいかがでしょうか。計算式は次の図と同じものです。下記の記事にありますように、伝送線路は同軸ケーブル以外のものもあります。このサイトではこれらのZOの計算をすることができます。
http://www.eeweb.com/toolbox/coax

同軸ケーブルではない伝送路
伝送路の仕組み[6]ー プリント基板(PCB)伝送路

同軸ケーブルの特性 Coaxial cable characteristic
同軸ケーブルの特性 Coaxial cable characteristic

では、どうやって測ることができるでしょうか。

残念ながら、導通テスターの抵抗計のようなもので手軽に測ることはできません。

抵抗計の原理は、直流電流による電圧降下を計ります。(計るときの直接の対象は抵抗ではなく電圧です。計測器は、その多くが電圧を計り、求める値を換算します。)

答えは、一般には「TDR Time Domain Reflectometry」という計測器を使います。TDRは、実際にはオシロスコープ (oscilloscope) にオプションを付けたものです。(これを測るオシロは高級で、一般個人が買えるような値段ではありません。)

TDR以外では、LCRメータで測る方法もあります。インダクタンスLとキャパシタンスCを計り、計算により求めます。ただし、一般のLCRメータは、数百メガヘルツ以上の高い周波数では計測できませんので、低周波の値しか分からないはずです。

同軸ケーブルとシールド線
オーディオ帯域は、無線通信やベースバンド伝送などに使う信号と比較すると低い周波の信号であり、特性インピーダンスを気にする必要はありません。シールド線は同軸ケーブルと同じような構造ですが、違いは特性インピーダンス ZOを厳密に管理して製造するかどうかと、数百メガヘルツ以上のような高い周波数を扱えるかどうかです。同軸ケーブルは ZOを厳密に管理するところがまず違います。

その他の特性

同軸ケーブルは、普通に対象とする周波数帯域ではかなり理想的ですが、たとえばどこまでも高い周波数を扱える訳ではありません。その他にも様々な要因により特性に影響します。

➔ 導体損失 Conductor losses

伝送線路のモデル(等価回路)」の図にあるR成分は、同軸ケーブルを流れる信号のすべての周波数に作用します。

さらに、周波数の高い領域では損失が増加し、信号は大きく減衰し初めます。原因は「表皮効果 skin effect」によるもので、導体の表層部のみを集中して電流が流れます。

ケーブルの直径
ケーブルの太さには様々な種類がありますが、太いケーブルほど低損失です。損失特性は、使用する材料によって異なります。

放送局の送信機は大電力を扱いますが、アンテナ・ケーブルの太さには驚くと思います。このような用途では、桁違いに高い電圧に加えて大電流を扱います。

➔ 漏れ損失 Leakage losses

Gの成分は、導体間の漏れ電流を発生します。誘電体の抵抗が無限大ではないことによるものです。

➔ 誘電損失 Dielectric losses

誘電損失は、誘電体に交流電圧をかけると信号エネルギーの一部が熱に変わる現象で、同軸ケーブルにも発生します。

➔ コネクタ

同軸ケーブルを使用すると、コネクタが付き物です。コネクタの特性によりどこまで高い周波数帯域を扱えるのかという問題や、コネクタによるインピーダンスの乱れもあります。高い周波数領域を扱えるものは高価です。

次の記事「伝送路の仕組み[5]ー ツイストペア・ケーブル」に続きます。

参考資料

[8] Transmission Line Handbook
  B. C. Wadaell 箸 1991年 Artech House, Inc. 刊

[9] Noise reduction techniques in Electronic systems
  H. W. Ott 1976年 Bell Telephone Laboratries 刊