光通信とは

はじめに

光通信 (Optical Commnunications)はもはや珍しい技術ではありません。この記事では光通信の概要と基本的な事柄について解説します。

いくつかのインターネット・サービス・プロバイダ (ISP Internet Service Provider)は、1Gbps(1 giga bits per second 1ギガビット毎秒)あるいはこれを超える通信容量(速度)を、すでに提供中です。

伝送レートまたは伝送容量(伝送路容量) Channel capacity
なぜ「速度」ではなく「容量」なのかというと、信号の伝わる速度はほとんど変化しません。通信に関して多くの場面で「速度」の用語を見たり聞いたりします。データ伝送が「早い」ときでも「遅い」ときでも信号の伝わる速度はほぼ一定であり、変化するのは「速度」ではなく「データ量」です。しかし、通信の専門業者であるプロバイダでさえも(一般向けの資料だけかどうかは知りませんが)「速度」という表現を使いますから混乱するかもしれません。

伝送レートは何で決まるか?

20年ほど前に始まったインターネットにおける通信は、当初は数10Kbps程度のモデムを使いました。

10K (104)bpsから1G(109)bpsへの変化は、実に105 (100,000)倍もあります。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。

答えは、帯域幅 (bandwidth)にあります。

物理的な原理により最大伝送レートは決まります。現実のシステムは、さまざまな制限から最大伝送レートはさらに下がります。
  

帯域幅は、周波数 (frequency)と密接な関係にありますが、高い周波数ほど帯域幅を広くとることができるからです。

通信の方式には、まず「ベースバンド伝送」(baseband transmission)があります。信号を細工せずに生のまま伝送するものです。この方式では、信号のクロック周波数と等しいレートで伝送することができます。

これと対比するもう一つの方式は、「ブロードバンド伝送」(broadband transmission)です。こちらは「変調 modulation」を伴うもので、クロック周波数よりも高いレートが得られます。

たとえば、1MHz(106Hz)の周波数では、何もしないベースバンド伝送は 1Mbps(106bps)が得られるだけです。対して、ブロードバンド伝送では、倍の 2Mbpsや、さらに倍の 4Mbps のレートを達成できます。(レートは方式によります。ただし、いつもいいことばかりではありません。)

参考記事
伝送方式の詳細は、次を参照してください。
http://wimax-page.123-info.net/archives/268 伝送データの符号化
http://wimax-page.123-info.net/archives/2212 伝送符号とは

20年ほど前に始まったインターネットにおける通信では、当初は、通信路の帯域幅は広くなかったのですが、段々と帯域幅が広がり伝送レートは高くなりました。(たとえば、ADSLモデムは 1MHzの周波数帯域幅で、変調の操作により数10Mbpsのレートを実現します。これはいまや普通です。)

光通信の伝送レート

光通信では、電気信号とは桁違いの格段に高い周波数を扱います。

少し古い資料からの引用ですが、レーザーを使う通信では、100THz (=100 x 1012Hz =100,000GHz) の周波数において1THz (1012Hz) の帯域幅を使用することができます。つまり、ベースバンド伝送の方式でも、単純計算で 1Tbps ものレートが出る(現時点では能力を有する)のです。実に1Gbps の1000倍ものレートです。

これはあくまで、単純計算です。光信号だけでシステムは完結しません(つまりシステムは作れない)から、これに見合う電気信号の処理は当然ながら必要です。したがって、1Tbps の性能を達成するためには、これを実現する電気信号を処理することが必要です。

数字を並べるだけなら簡単ですが、実現できるかどうかは別です。光通信で使用する光ファイバの研究は10数年前に始まったばかりに近い段階でまだ歴史は長くありませんが、これから光通信の限界はさらに伸びるのは間違いないことでしょう。

レーザー LASER Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation 輻射の誘導放出による光増幅
「レーザー」は、位相の揃った単一波長の光を放出する技術や装置を意味する頭文字。レーザー以外の光源が放つ光は、位相がばらばらなところが大きく異なる。
なぜレーザーを使う?
 光通信においてレーザーを使う理由は、単一波長であるからです。理想は完全な単一波長ですが、実際には完全ではありません。しかし、レーザー以外の光源は広い範囲の波長を含みます。
 LED (Light Emitting Diode) はレーザーほどではないものの、単一波長に近い特性のものがあります。
 ファイバの中を通過する光の波長ごとに速度は異なります。これにより分散 (dispersion) を生じ、光パルス信号が時間軸方向に広がる現象が発生します。パルスをはっきりと識別できなくなりシステムの性能に影響します。

光通信によるWAN(Wide Area Network 広域通信網)においては、1998年時点の商用システムでは、10Gbpsの伝送レート規格が最大(※1)でしたが、40Gbps規格の追加がなされました。

OC-N (SONET) STM (SDH) 伝送レート
OC-1 STM-1 51.84 Mbps
OC-3 STM-4 155.52 Mbps
OC-12 STM-8 622.08 Mbps
OC-48 STM-16 2.488 Gbps
OC-192 STM-64 9.953 Gbps
OC-768 STM-256 39.813 Gbps
用語の解説
SONET Synchronous Optical Network
 SONETは伝送規格です。念のため、ソネット株式会社が運営するプロバイダのSO-NETとは無関係です。
STM Synchronous Transport Module
SDH Synchronous Digital Hierarchy

LANの規格では、すでに100Gbpsも存在します。Ethernet はLANの規格ですが、LANだけでなくWANでも使う試みもあるようです。

LAN Local Area Netowrk

NTTは、最近 15GHz帯の無線で 4.5Gbpsの伝送実験に成功したことを発表しました。現行のシステムに比べると伝送レートは大幅に上がります。しかし、光通信の潜在能力はこれと比べても桁違いです。

もっとも、どちらがどうということではなく、それぞれ特長があり、特性を生かした使い方はできます。ここで言いたいことは、光通信の潜在能力についてです。電気信号と違う理由は先に記した周波数です。

ケーブルの損失

電気信号でも光でも、遠くまで通信するときは特に「損失」の問題が付いて回ります。

損失により信号レベルは小さくなります。

なぜ、損失が発生するのか?

電気信号(の電力レベル)は、抵抗やその他の要因により信号が弱くなるからです。光ではその要因は異なりますが、弱くなるのは電気信号とまったく一緒です。むしろ、光のほうが目に見える(可視光線の場合)だけ分かりやすいかと思います。

参考記事
電気信号の減衰については説明があります。こちらを参照してください。
http://wimax-page.123-info.net/archives/3625
ADSLの伝送容量(速度)と距離

高い周波数では、より低い周波数に比べて信号レベルの弱まりかたが大きくなりますが、電気信号ではこのことは特に顕著です。光通信のファイバー・ケーブルの種類には、マルチモード・ファイバとシングルモード・ファイバがあります。シングルモード・ファイバのほうが減衰率は低い(弱まりにくい)です。

別の記事で解説する予定ですが、シングルモード・ファイバは伝送レートをより高くすることができます。

光ファイバーのモード
 「モード mode」とは、伝送媒体中の光の伝播(でんぱ)を数学的かつ物理学的に説明するための概念です。モードの理論はマックスウェルの方程式から導かれるものです。
 難しいことはさておき、「モード」は、ファイバの中を光が通過する経路と考えれば十分です。マルチモード・ファイバでは、光が媒体中を反射しながら複数の経路をたどります。これに対してシングルモード・ファイバでは、光は反射することなくただ一つの経路をたどります。
 シングルモード・ファイバの原理は非常に複雑かつ難解で、マルチモード・ファイバで光が反射する様子は簡単に説明できるように、絵に書いて説明することができません。(これに関してはしばしば、誤った説明が見られます。その原理は全反射ではありません。)

電磁波への耐性

電気信号は、裸のケーブル等の導体から電磁波(=電波)を出しやすい特性があります。

この特性を最大限に利用し設計したものがアンテナ (Antenna)です。

必要のない信号が他の導体や装置などに影響を与えることは電磁妨害 (EMI Electro Magnetic Interference)と言います。EMC (Electro Magnetic Compatibility) はこの影響を与えにくい、または受けにくい特性のことです。

これに対して、光信号では電磁波を放出する問題は存在しません。つまり EMI やEMCは考えなくて良いのです。

しかし、個人的にはとても不思議に思います。

光は電磁波の一種と考えられるのですが?・・・  大きな謎です。

光ファイバのその他の特長

光ファイバは大きな特長があります。

・軽い
・細い
・安全(防災上の)
・セキュリティ

ガラス繊維で作られる光ファイバは、電気信号を通す金属導体とは異なり、非常に軽くすることができます。軽い理由は、材料が金属ではないことと、また非常に細くできるからです。

シングルモード・ファイバの例では、中心のコア (core) の直径は 8ミクロンで周りを覆うクラッド (clad) は125ミクロンです。(125ミクロン=0.125mm) ファイバを保護するためコーティング (coating) を施したケーブルは少し太くなりますが、それでも電気ケーブルと比較すると圧倒的な細さです。

同軸ケーブルはファイバと比べて信号の減衰が激しく、長距離で使うには太くしないと使えません。

電気ケーブルと比較した例では、たとえば、資料(※1)には電話回線の使用例があります。昔のディジタル回線は同軸ケーブルで直径が11センチもあり40300回線の容量です。写真を見ると、太い同軸ケーブルが25本ほど使われ、とても太い束ねられた1本のケーブルを構成します。ファイバ・ケーブルはこの1/10の直径で144芯もあり、174万回線を扱うことができます。まったく桁違いです。

ファイバ・ケーブルが安全である点については、電気を扱わないので電気スパークは発生しませんから火災の原因にはなりません。

セキュリティについては、電気信号とは違いファイバは盗聴することは非常に困難です。資料(※1)の例には、米国大使館を盗聴していたことを発見したことが書かれています。大使館の建物の中ではなく、隣の建物に高感度のアンテナをおき電子機器から出る信号(つまり、通常ならば電磁妨害 EMI)を拾っていたそうです。ファイバからは信号は漏れないのでこんなことはできません。ファイ・バケーブルに細工してこっそりとじかにつなぐことも極めて困難です。

参考資料
※1 ファイバネットワーク技術解説 ドナルドスターリング箸 赤木保之 訳 行松健一 監訳
 2002年 ソフトバンクパブリッシング 刊
 原著 Technician’s Guide to Fiber Optics third edition by Donard J. Starling, JR. 2000 Cengage Learning 刊